バイオマス班
植物、バイオマスおよび自然の浄化能を利用した環境低負荷型物質循環の構築
現在、さまざまな人間活動により自然環境中に排出される窒素?リンや温室効果ガスは水質の悪化や地球温暖化など私達だけでなく、富栄養化(赤潮?あおこ)など、地球上の生物に悪影響を与えます。一方、利用可能なエネルギーを有しているにも関わらず、さまざまなバイオマスが散在しています。
図 1. 窒素?リンによる自然界への影響 (左:赤潮 右:あおこ)
これらに対して、私達が注目しているのは植物や環境中の微生物など自然の環境浄化能を利用した窒素やリンの浄化や、バイオマス(稲わらや畜産糞尿)の循環利用に関する技術です。
しかし、ひとくちに「栄養塩の浄化」や「未利用バイオマスの循環利用」といっても、それらに関連する微生物反応プロセスや利用技術が別の環境負荷物質を生成する場合もあります。
たとえば、微生物による窒素除去はその過程で二酸化炭素よりも強力な温室効果ガスで、かつオゾン層破壊物質でもある亜酸化窒素というガスを生成してしまいます。活性汚泥法などの水処理においては、処理後の固液分離で発生する汚泥も処理しなければなりません。
私達飼料イネ班は、このような処理に伴う環境負荷もできる限り抑えた自然浄化技術やバイオマス循環利用の可能性を信じ、開発にチャレンジしています。
研究例① 乾式メタン発酵
乾式メタン発酵とは?~従来の湿式メタン発酵との比較~
メタン発酵とは、様々な微生物たちが共存し、有機物をメタンへと分解する反応のことです。このとき発生したメタンガスは回収され、エネルギーとして利用することができます。
メタン発酵はその原料中の含水率の違いにより従来法である湿式メタン発酵(含水率;約95%)と新規法である乾式メタン発酵(約80%)に分けることができます。本研究室では水処理が不要であり、よりエネルギーを少なくできる乾式法に注目し研究を行っています。
当研究室が提案するシステム
本研究室では新規の家畜排水処理法として乾式メタン発酵に飼料稲を混合する循環型処理システムを提案しています。
このシステムでは豚のふん尿をメタン発酵の原料に用い、またそこに炭素源として、栽培した飼料稲の稲わらを加えることでより大きなエネルギーを回収することができます。このとき飼料稲の穂を豚のえさとし、メタン発酵の残渣を飼料稲水田の肥料とすることでムダのない循環型の豚ふん尿処理システムを構築することができます。
結果
これまでの実験結果としてはメタン発酵を行った際、原料として養豚排水のみを用いた系とさらに稲わらを加えた場合では稲わらを加えた系の方がよりメタン生成(分解)が促進されることがわかりました。
また本システムの試算を行ったところ、乾式メタン発酵のエネルギーが多くかかってしまうため、乾式メタン発酵のエネルギーを減らした簡易式の装置の開発を行っています。
研究例② 多収米飼料イネを用いた家畜排水処理技術
多収米飼料イネとは
飼料イネとは家畜の飼料として利用できるイネ品種のことです。その特徴として、食用イネに比べてより多くの窒素肥料を投入できる、という点があります。食用イネは多くの窒素肥料を投入すると、穂が重くなり倒れるため収穫が難しくなります。一方、飼料イネは茎が強いため、窒素肥料をより多く投入しても倒れません。また、窒素の吸収力が高く、葉、茎および穂を合わせた収量は食用イネよりも高い(2倍程度)、というのも特徴の一つです。図1には私達の現場実験で使用した飼料イネ品種のリーフスターを示してあります。食用イネの高さは大体80-100cm程度ですがこの品種は140 cm位の高さまで生長しました。
多収米飼料イネはそのような飼料イネ品種のなかで、穂の部分の収量が高い品種を言います。
多収米飼料イネを用いた排水処理技術の原理
上記のような特徴を多収米飼料イネは備えているため、排水中に含まれる窒素を除去する技術への応用が期待されます。多収米飼料イネを植えた水田に排水を流入させた際の排水浄化の様子を簡単に示してあります。排水に含まれる排水中の窒素は水田土壌に存在する微生物により窒素にまで浄化され、大気へと排出されます。また、イネに吸収され、水田から除去されます。
問題点
一方、水田に投入された排水中汚染物質のうち、浄化されなかったものは環境負荷として水田から排出されます。土壌中の微生物による窒素や有機物の除去の過程では、温室効果ガスである二酸化炭素よりも強力な温室効果をもつメタン(CH4)や亜酸化窒素(N2O)が生成され、大気へ排出されます。また、悪臭の発生、土壌への汚染物質の残留や地下への浸透も起こります。従って、如何にこれら環境負荷を減らしつつ大量の排水を処理するか?というのが私達の課題であると考えています。
細見?寺田研究室では
当研究室ではこのような排水処理に伴う環境負荷を軽減した、環境にやさしい排水処理を目指して研究を行っております。実際の水田を用いた観測のみにとどまらず、室内実験による排水中汚染物質の除去経路の解析などを通して低環境負荷型畜産排水処理システムの提案を行っていきます。
研究例③ 発酵残渣の蓮田への適用
発酵残渣とは
乾式メタン発酵を行った際に、残りカスとして生じるものが発酵残渣です。窒素分を多く含むため、肥料として利用することができます。
発酵残渣の蓮田への適用
当研究室が提案しているシステムでは、休耕田に発酵残渣を施肥し、多収米飼料イネを育てるというものです。しかし、休耕田は限られており、イネ以外への適用範囲を拡大する必要があります。そこで、本システムのモデル地域である茨城県で栽培が盛んなハスに注目しました。蓮田は液状であり、発酵残渣の施肥が容易であることなども利点として挙げられます。
問題点
蓮田に発酵残渣を施肥したときの、周辺への環境汚染の影響が分かっていない。
細見?寺田研究室では
当研究室では蓮田に発酵残渣を施肥する前段階として、慣行法で行った際の環境負荷を測定している。これらの実験に蓮田に発酵残渣を施肥した際の環境影響を軽減するようなシステムを目指して研究を行っております。実際の水田を用いた観測のみにとどまらず、室内実験による排水中汚染物質の除去経路の解析などを通して低環境負荷型畜産排水処理システムの提案を行っていきます。