回折データの処理から立体構造の決定まで
殿塚隆史(東京農工大学大学院応用生命化学専攻)
【1】データ処理の流れ
計算の流れは大体以下のとおり
(1) 結晶学的な性質の決定。
(2) 回折イメージの数値化。
(3) 結晶学的対象単位に分子がいくつあるか見積もる。
(4) 数値化した回折データを一つにまとめる。
(5) 得られたデータをもとに位相を決定。
(6) モデルを精密化。
(7) モデルの構築。
ここでは、ニワトリ卵白リゾチームの回折データを七面鳥卵白リゾチームの立体構造から分子置換法を用いて位相を決定し、モデルの改良を行ってみる。両タンパク質とも129アミノ酸残基から構成され、異なるアミノ酸残基は以下の7残基である。
残基番号 |
ニワトリ |
七面鳥 |
3 |
Phe |
Tyr |
15 |
His |
Leu |
41 |
Gln |
His |
73 |
Arg |
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99 |
Val |
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101 |
Asp |
Gly |
121 |
Gln |
His |
なお、本マニュアルは、詳細な設定などの記述や結晶学的な原理の説明は省略しています。ご容赦ください。
【2】Mosflm による回折データの処理
1. R-AXIS II C 用の初期設定ファイルの編集
適当なテキストエディタ(Linux なら gedit、Mac なら mi エディタなど)で、下図のとおり、初期設定ファイルのファイル名と振動角を編集し、raxis.inp などの名前で保存する。赤で囲んだファイル名と振動角を編集する。あとはこのままでよい。Mac の場合、改行コードは必ず Unix にする。
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2. Mosflm の起動
シェルのコマンドラインから ipmosflm とタイプする。プログラムが起動したら先ほど編集したファイル名に @ をつけたものをタイプする。ここでは @raxis.inp とタイプする。
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次のページのような画面が表示される。メニューはたくさん並んでいるが、基本的には Find spots → Autoindex → Predict → Integrate の順で進む。まずFind spots をクリックする。
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いろいろ尋ねてくるが、基本的にはデフォルトのまま、そのままリターンキーを押して進めるとスポットを探してくる。途中 Threshold について尋ねられた場合、そのまま OK ボタンをクリックして進める。
3. 結晶学的なパラメータの決定
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Autoindex をクリックする。基本的にはデフォルトのまま、そのままリターンキーを押して進める。
空間群および結晶格子のパラメータの候補リストが表示される。PENALTY は低いほど確からしいが、同じような PENALTY であれば、規則性のより高い空間群を採用する。ここではPENALTY は若干高いが、Suggested Solution として Primitive Tetragonal があげられており、実際は P43212 であることが報告されているので 10 p43212 とタイプする。
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Predict をクリックし、決定した結晶のパラメータがあっているかどうか確認する。実際のスポットと予測されたスポットの位置が異なる場合は、Autoindex をやり直す。
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4. 回折データの数値化
Integrate をクリックする。回折データファイルの枚数を尋ねてくるので1枚目から31枚目なら 1,31 と入力する。あとは基本的にはデフォルトのままリターンキーを押して進めていくとインテグレーションが始まる。
途中の画面
5. Mosflm の終了
Save/Exit をクリックする。パラメータを保存するかなどいくつか尋ねてくるが、通常はそのままリターンキーを押して進める。
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コマンドの画面に戻ったら、さらに stop と入力すると終了する。
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【3】CCP4 によるデータの処理
ここでは、ファイルは Full path → Browse により直接読み込んでいますが、Project directory として指定することもできます。やり方のルールはコンピュータの管理者に尋ねてください。
1. CCP4i(CCP4interface)の起動
シェルのコマンドラインからccp4i とタイプして起動させる。
2. 結晶学的非対称単位に存在する分子の数の見積もり
1. CCP4i メインウィンドウより左上黄色いタブをクリック → Molecular Replacement
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2. 左側のタブ → Cell Content Analysis
3. MTZ File → Full path → Browse → mtz ファイルを指定
Mosflm の結果より得られた mtz ファイルを取り込み、結晶学的なパラメータを入力する。またはパラメータを直接手入力してもよい。
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4. OKをクリック
5. Molecular weight of protein → 分子量を入力
ニワトリ卵白リゾチームの場合 14300、一次構造よりあらかじめ計算しておく。
6. Run Now
% solvent の値は通常 40〜50 程度である。
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ニワトリ卵白リゾチームの場合、結晶学的非対称単位中に1分子と見積もられる。
7. 以上終了したら、Cell Content Analysis ウィンドウはクローズしてよい。
Close をクリック
3. 回折データのマージとスケーリング
1. CCP4i メインウィンドウより左上黄色いタブをクリック → Data Reduction
2. 左側のタブ → Scale and Merge Intensities
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3. Ensure unique data & add Free R column for ... にチェック入れる。
4. MTZ in → Full path → Browse → Mosflm で生成した mtzファイルを指定
5. MTZ out → Full path → ファイル名が勝手に入るが、好きな名前に変更してもよい。
6. Estimated muber of residues in the asymmetric unit に残基数を入力
ニワトリ卵白リゾチームの場合 129
もし、結晶学的非対称単位が2分子であれば残基数は2倍を、3分子なら3倍した数を入力する。
7. belonging to Project および Dataset name に適当な名前を入力
8. Run → Run Now
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9. 結果をチェックする。CCP4i
のメインのウィンドウの右側のタブより
View Files form Job → View Log File
10. スクロールバーをスクロールすると。中央付近に次ページのような統計値がある
Rmrg、I/sigma、%poss などをチェックして分解能を決定する。
11. Scale and Merge Intensities ウィンドウに戻り、Excede data less than ... Angstrom or greater than ### Angstrom の ### の部分に決定した分解能を入力し、同じ要領でもう一度計算を行う。
12. 以上終了したら、Scale and Merge Intensities ウィンドウはクローズしてよい。
Close をクリック
4. 分子置換法による位相の決定
1. 鋳型となる分子モデルの用意
Protein Data Bank (http://www.rcsb.org/)より、鋳型となる分子モデルをダウンロードする。ここでは、七面鳥卵白リゾチーム 1JEF を使用する。
2. 鋳型となる分子モデルの整形
鋳型となる分子モデルを、適当なテキストエディタ(Linux なら gedit、Mac なら mi エディタなど)で、整形を行う。
この場合、PDB ファイルの最後の方に記載されている水分子、リガンド分子、糖鎖を削除する(下図の反転している箇所)。END は残しておく。
3. 適当な名前で保存する。ここでは 1jef-template.pdb とした。
4. CCP4i メインウィンドウより左上黄色いタブをクリック → Molecular Replacement
5. 左側のタブ → Molrep -auto MR
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6. MTZ in → Full path → Browse → Scale and Merge Intensitiesで生成した mtzファイルを指定
7. Model in → Full path → Browse → エディタで整形した鋳型モデルを指定
ここでは 1jef-template.pdb
8. Coords out → Full path →
ファイル名が勝手に入るが、好きな名前に変更してもよい。
9. Run → Run Now
10. 結果をチェックする。CCP4i のメインのウィンドウの右側のタブより
View Files form Job → View Log File
この場合、Rotation function(RF)、Translation funcion(TF)とも1つだけ有意に大きくなっていればよい。結果は次のとおりとなる。
11. 以上終了したら、Molrep のウィンドウはクローズしてよい。
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5. 分子モデルの精密化(リファインメント)−その1 Rigid Body Refinement
1. CCP4i メインウィンドウより左上黄色いタブをクリック → Refinment
2. 左側のタブ → Run Refmac5
3. Do のタブより rigid body refinement を選択
4. MTZ in → Full path → Browse → Scale and Merge Intensitiesで生成した mtzファイルを指定
5. MTZ out → Full path →
ファイル名が勝手に入るが、好きな名前に変更してもよい。
6. PDB in → Full path → Browse → Molrep の結果得られたモデルを指定
7. PDB out → Full path →
ファイル名が勝手に入るが、好きな名前に変更してもよい。
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8. Run → Run Now
9. 結果をチェックする。CCP4i のメインのウィンドウの右側のタブより
View Files form Job → View Log Graps → 新しいウィンドウが現れる
下にスクロール → Rfactor analysis, stats vs cycle をクリック
Rfactor および Rfree をチェックする
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6. 分子モデルの精密化(リファインメント)−その2 Restrained Refinement
1. Refmac5 のウィンドウが開いていなかったら開く
2. Do のタブより restrained refinement を選択
3. MTZ in → Full path → Browse → Scale and Merge Intensitiesで生成した mtzファイルを指定
4. MTZ out → Full path →
ファイル名が勝手に入るが、好きな名前に変更してもよい。
すでに同名のファイルがあり前のファイルが上書きされてしまう時は欄が濃い黄色となるので、別のファイル名にする。
5. PDB in → Full path → Browse → rigid body refinement の結果得られたモデルを指定
6. PDB out → Full path →
ファイル名が勝手に入るが、好きな名前に変更してもよい。
すでに同名のファイルがあり前のファイルが上書きされてしまう時は欄が濃い黄色となるので、別のファイル名にする。
7. Use weighting term の項は、リファインメントの際X線の回折データをどのぐらい重視するかという項目である。デフォルトでは少し高すぎるので、ここでは 0.1 程度の値を入力する。直さないとモデルにゆがみが生じる場合がある。
8. Run → Run Now
9. rigid body refinement の時と同様に
View Files form Job → View Log Graps →
新しいウィンドウ → 下にスクロール →
Rfactor analysis, stats vs cycle
によりRfactor、Rfree をチェックする。
【4】Coot による分子モデルの構築
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1. Coot の起動とモデルの読み込み
1. シェルのコマンドラインからcoot とタイプして起動させる。
2. File → Open Coordinates → CCP4 のリファインメントの計算の結果得られたモデル(名前は1jef_molrep1_refmac2.pdb などとなっている)を読み込む。
2. マウスの使い方
左ボタンのドラッグ:モデルを回転
中ボタンをクリック:クリックした場所を中央として上下左右に移動
ctrl + 左ボタンのドラッグ:モデルを上下左右に移動
右ボタンのドラッグ:モデルを拡大縮小
3. モデルおよびマップの読み込み
1. File → Auto Open MTZ → CCP4 のリファインメントの計算の結果得られた mtz ファイル(名前はlyso_refmac2.mtz などとなっている)を読み込む。
これにより、2種類のマップが読み込まれる。
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2. Coot ではコンツアーのデフォルト値が 1.5 sigma となっている。そこで、キーボードのマイナスキーを5回押して 1 sigma 程度に下げる。ホイールマウスの場合、ホイールでも調節できる。
3. ここでは、とりあえずオミットマップは使わないので、Display Manager をクリックする。オミットマップは ... DELFWT ... と表示されているので、この Display のチェックをクリックしてはずす。
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4. モデルの修正
ここでは例として、残基番号3番めの Tyr を Phe に直してみる。
1. まず3残基めの Tyr を表示させる。Draw → Go To Atom でGo To Atomウィンドウを開く。
2. Chain A をクリックし残基番号のリストを表示させる。
3. 3 TYR をクリックすると3残基めの Tyr が表示される。
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4. Calculate → Model/Fit/Refine より Model/Fit/Refine ウィンドウを開く。
5. Mutate & Auto Fit をクリックすると、どのマップを使うか聞いてくる。ここでは... FWT ... と表示されるマップを使うので、そのまま OK をクリック。
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6. もう一度 Mutate & Auto Fit をクリックすると、ボタンが押し込まれた状態になる。
7. この状態でアミノ酸残基の種類を変更したい残基(ここでは3番めの Tyr)をクリックする。
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8. 新しいウィンドウがポップアップし、どのアミノ酸残基に変更したいか尋ねてくる。ここでは PHE(F) をクリックする。
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9. 残基が Phe に変更される。
10. File → Save Coordinates より、構築したモデルを保存する。ファイル名は勝手に入るが、好きな名前に変更してもよい。
11. 同様の手順で、残りの6つのアミノ酸残基も全て修正する。
12. CCP4 で、構築したモデルの restrained refinement を行う。