はじめに
亀田研究室は,流体力学 (Fluid Dynamics; Fluid Mechanics) を専門とする研究室です.
流体力学という学問は非常に幅が広いので, 研究室でカバーする分野はある程度限られています. 現在は,
- 気泡運動,気泡を含む液体の流れに関する研究
- 高速空気力学,次世代超音速旅客機開発に関する研究
の2本立てで研究を行っています.それぞれの概要はこのページの下に示す通りです.
また,機械系以外の分野の研究者とともに,
火山物理学や
感圧・感温塗料の開発研究などにも取り組んでいます.
機械工学科という枠にとらわれないで研究活動ができるのは,流体力学を学ぶ者のメリットの一つだと思っています.研究プロジェクトの具体的な内容は,別ページ
(
研究テーマ) を参照してください.
研究分野を学術用語であらわすとすれば,
気泡力学 (Bubble Dynamics),
気泡流 (Bubbly Flow),
空気力学 (Gas Dynamics),
超音速流れ (Supersonic Flow),
音響 (Acoustics),
衝撃波 (Shock Wave),
流れの可視化 (Flow Visualization),
数値流体力学 (Computational Fluid Dynamics) ということになるでしょう.
研究室の雰囲気は,「お遊び系でないスポーツサークル」といったところでしょうか. 毎年,やる気に満ちた学生たちが亀田研へと集い,自発的,積極的に動き回っています.
卒論生の研究室生活の概要は,このページの下に示す「研究室の一年」を見て下さい.
2013年1月に本分野テニュアトラック准教授として迎えた田川義之先生の研究室(
田川義之研HPはこちら)とは,緊密に連携を取りながら研究室活動を行っています.
なお,2008年度以降の学部卒業生はほぼ全員が大学院・博士前期(修士)課程に進学しています. これは,現在の農工大機械システム工学科学部生の進学率(75%)に比べてかなり高い割合です.
また,博士前期課程修了生はみな,自ら考え抜いた思い通りの進路(企業,博士後期課程)へと羽ばたいて行きます. 卒業生進路の詳細は,
メンバー・進路を参照してください.
気泡運動,気泡を含む液体の流れに関する研究
それでは,第1の柱,気泡に関する研究から紹介しましょう.
気泡を含んだ液体やミスト(霧)を含む気体など, 異なる2つ以上の相(気相,液相,固相)を系の中に持つ流れを, 「混相流 (multiphase
flow)」と呼びます. すぐにわかると思いますが,気体だけ,または液体だけ,という状態(単相流)に比べて, 混相流は流れの様子がかなり複雑になります.
そこで,この複雑な流れの様子を解明しようとして, 現在,多くの流体力学研究者が混相流に挑んでいます. 混相流は,「乱流」や「化学反応を含む流れ」とともに,
現代流体力学界におけるもっともホットな研究課題です.
亀田研究室では,混相流の中から,特に,バブルを取り上げて研究を進めています.
ポンプなどの流体機械では,内部の圧力変動によって気泡が発生することがよく起こります. この現象を「
キャビテーション (cavitation)」と呼びます. 液体中に少量でも気泡が含まれている場合, その流れ構造は劇的に変化し,流体機械の効率が大きく変化します. また,気泡が膨張・収縮運動を起こすために,
機器全体が大きく振動したり,気泡消滅時に発生する非常に強い衝撃波のために, 機器の表面がボロボロになる,といった現象もよく見られます.
キャビテーション現象を明らかにするためには, 圧力変動にともなう多数の気泡の運動の様子を詳しく調べる必要があります. 一方,多数の気泡が存在すると,その中を伝わる圧力波の構造も大きく変化します.
本研究室では, 現在,圧力変動にともなって起きる個々の気泡運動をミクロな視点から調べています. 同時に,気泡を含む液体中における圧力変動の特性をマクロな視点から調べています.
一見地味な研究のようですが,ベーシックであるがために,研究には広がりがあります. 例えば,
火山物理学研究者のグループと共同で,
火山噴火のダイナミクスに対する気泡運動の影響を調べたり,
農学系や分子生物学の研究者と共同で大気中に含まれる微量の揮発性有機化合物(VOC)の捕集法の開発を進めたりしています.
バブルの研究は,機械工学の枠にとらわれずにテーマを選べることが魅力です.
高速空気力学,次世代超音速旅客機開発に関する研究
亀田研究室のもう一つの柱は,超音速流れを中心とした高速空気力学に関する研究です.
コンコルド (Concorde) という旅客機を知ってますか? コンコルドは, 就航実績のある唯一の超音速旅客機で,1960年代に英仏共同で開発されました.
しかし,このコンコルド,当時の金額で8000億円の開発費がかかったにもかかわらず, たったの17機しか製造されませんでした. その優美な姿とは裏腹に騒音が大きく,
NO
xやCO
2の排出量も多く, さらに航続距離が短い(太平洋路線に使えない)という大問題を抱えていたためです. このため,コンコルドは商業的には失敗に終わりました.
コンコルドの退役を受けて,コンコルドに代わる新しい超音速旅客機(supersonic transportation: SST)の 開発機運が高まっています.
アジア路線を中心に非常に大きな潜在需要がある,とされています.
SST開発の鍵は,コンコルドの持つ環境問題を克服することです. そのため,第1に,画期的なエンジンが求められます. 第2に,超音速機特有の騒音「ソニックブーム
(sonic boom)」を劇的に低減する必要があります. 本研究室では,現在,JAXAの研究者とともに
エンジンの空気取り入れ口 (インテーク) に関する研究 (
JAXA/航空技術部門/静粛超音速機技術) や
数値シミュレーションによる遷音速域における衝撃波の振動現象 (バズ,バフェット) の解明と解析精度向上法の研究 (
JAXA/航空技術部門/数値解析技術),
また,以前には,
ソニックブーム低減手法の確立に関する研究にも取り組んだ経験があります.
さらに,これらの研究をすすめるための風洞実験計測技術の開発研究 (
感圧塗料を用いた新しい圧力計測法,
新しいシュリーレン法を用いた衝撃波3次元構造再構成法に関する研究) を,やはりJAXAの研究者と共同で行っています (
JAXA/航空技術部門/空力技術).
われわれは,これらの研究が,日本技術力の向上に役立つことを目指しています.
研究室の一年
亀田研究室における卒業研究の進め方を見ていきましょう.
亀田研究室に卒論生として配属されると, まず,2月下旬に,複数のテーマの中から自分が卒論で手がけたいテーマを選びます. 亀田研の場合,一つのテーマに大学院生1人,4年生1人というのが基本的なチーム構成です.
4月から7月までは,卒業研究を自主的に行うための準備期間に充てています. 各チームに配属された4年生は,大学院生の指導を受けながら, これまでの研究結果の概要や,実験装置の扱い方,また,
研究を進めるに当たって必要となる知識(英語,流体力学など)を学んでいきます.
学んだことがらを, 1ヶ月に1回程度の割合で研究室メンバーに向けて発表してもらっています. また,卒論生,大学院生を問わず, 研究内容に関連した英語文献を調べて,メンバーに説明することも行います.
人に何かを説明する力は,どんな分野に進むにしても重要ですが, 研究室に入るまでは,あまり鍛えられるチャンスがないように思っています. 卒業研究前半の最重点強化項目でしょう.
夏休み前に,いよいよ卒論として手がける研究課題を固めます. ペアになっている大学院生が手がけている研究課題と 全く同じ課題を手がけることはあまりありません.
大部分の卒論生は, 自分独自のテーマを持って研究を進めることになります.
9月に行われる卒論中間発表を経て, 10月から1月までが卒業研究のピークとなります. この時期のがんばり次第で,研究成果の成否が決まります.
2月になると,これまで行ってきた研究結果をもとに,卒論を執筆していきます. 卒論のような長い(1000字詰めで50枚程度)文章を書くのは, 大部分の人にとって初めての経験でしょう.
また,科学技術論文では,簡潔で誰が読んでもわかりやすい, ということが強く求められます. 卒論執筆を通じて,論文の適切な構成方法や明解な文章の書き方を学びます.
以上のような流れで研究を進めていくわけですが, 日常生活を含めた具体的な研究の進め方は, 学生個人の自主性に任されています. 研究会や輪講といった正式な行事を除けば,あとの時間の使い方は自由です.
自分なりの規律を持って生活し, 創造力,論理性を身に付けるよう努力してくれれば, 必ず結果はついてきます.
亀田研究室に配属された学生は, 研究室の自由で明るい雰囲気を気に入っていると思います. また,自主的な研究活動を通じて, 新しいことを自分で発見する喜びを知っていくでしょう.
亀田研究室では,研究活動を通して,学生諸君が成長することを最大の目標にしています.