我々人類にとって有用な形質を持つ新しい植物を作り育てることを、植物育種といいます。植物育種学教育?研究分野では、植物の中で起こっている様々な現象を正確に知り、その知識を植物育種に役立てることを目指してタンパク質や遺伝子の研究を行っています。 タンパク質は細胞の中で「働き手」として機能しています。例えば酵素として働くタンパク質は、細胞を構成する物質の合成や分解反応ばかりではなく、外界 からの刺激に対する応答反応を制御していることも知られています。また、必要に応じて目的の遺伝子の発現を誘導している因子もタンパク質です。したがっ て、細胞の中で働くこれらのタンパク質の機能を知ることは植物育種にとって極めて重要なことなのです。一方、「働き手」としての役割を担うタンパク質の設計図が遺伝子です。遺伝的な改良を行って有用な形質を持つ植物を作成するためには、有用な遺伝子を特 定することが必要不可欠となります。またタンパク 質の機能を知る上でも、遺伝子を使った研究はとても有効です。現在、一部のモデル植物では全ゲノム情報が明らかにされ遺伝子の解析を行いやすい研究環境が 整ってきました。しかし、多くの植物種では未整備な状況にあります。したがって、多くの植物種で有用な遺伝子を特定するための技術を開発することも植物育 種学では重要となります。 以上のような視点から、私たちの研究室では次のような研究を行っています。
イネ種子 温湯消毒法は化学農薬を使用しないクリーンな技術ですが、種子の高温耐性が弱い一部の品種には適用できないことや、完全に防除しきれない病害があるなどの 課題があります。そこでイネ種子温湯消毒法を安定した技術として広く普及させることを目標として研究を行っており、温湯消毒時の種子の高温耐性に関わる 遺伝子の知見や、種子の水分含量を7~9%にすると高温耐性が向上することなどの成果が得られています。現在、以下の課題に取り組んでいます。
①種子の高温耐性を遺伝的に改良するための研究課題
キーワード
温湯消毒、水稲種子、水分含量、世界のイネコアコレクション、日本の在来イネコアコレクション、染色体断片置換系統群、実用化、生産現場、防除効果、ストレス耐性、品種間差
種子は、一般に低温?乾燥状態で保存すれば長期間発芽能を維持することができますが、このように保存しても短期間で発芽できなくなる種子もあります。種子寿 命の改善は、種苗業界では解決すべき大きな課題として位置づけられていますが、種子寿命の制御機構に関する知見は限られており、有効な対応策はほとんど見 出されていません。本研究では、イネを主な材料として種子寿命の改善を目指した解析を行っています。これまでにイネでは種子の寿命には著しい品種間差があ ることや、短時間のプライミング処理が寿命の改善に効果のあることなどがわかり始めています。現在、以下の課題に取り組んでいます。
キーワード
遺伝資源の保持、long-lived
mRNA、発芽能、染色体断片置換系統群(CSSLs)、活性酸素種(ROS)、イネコアコレクション、加齢処理、QTL解析、プライミング処理
水稲栽培において倒伏は深刻な障害であり、高収量?高品質の妨げとなります。イネの「強稈性」は耐倒伏性を高める重要な形質であり、bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@では作物学 研究室を中心にして「強稈性」を改善するための研究が精力的に行われています。植物育種学研究室でも作物学研究室との共同研究として、タンパク質に視点を 置いて 強稈形質の制御機構の解明を目的とした研究を行っています。現在、以下の課題に取り組んでいます。
キーワード
プロテオーム解析、強稈性、耐倒伏性、リーフスター、
2次元電気泳動、挫折型倒伏、MALDI-TOF/MS、節間
現在一般的に行われているイネの栽培法である移植栽培に対し、水田に直接播種する直播栽培は、育苗の工程を行わないので省コスト?省力化が期待できる優れた技術で す。東日本大震災で打撃を受けた東北地方でも、この技術を取り入れる取組みが行われています。しかしこの技術を冷涼な地域で普及させるためには、播種期の低温条件下における発芽不 良が大きな障害となっています。これに対してイネ種子の低温発芽性の制御にかかわる遺伝子がいくつか同定されていますが、それらの遺伝子産物による低温発 芽制御機構はほとんど解明されていません。本研究では、水稲の直播栽培を実現させるために以下の研究課題に取り組んでいます。
キーワード
直播栽培、種子形成期間、準同質遺伝子系統(NIL)、QTL、qLTG3-1、トランスクリプトーム解析、脂質代謝、コシヒカリ、阿波赤米、世界のイネコアコレクション
種子の休眠性に関する研究は、古くから行われており、種子生理化学における中心的な研究課題の一つです。休眠性が低いと種子を収穫する前に発芽してしまういわゆる 「穂発芽」が問題となり、品質や収量の大幅な低下を招きます。逆に休眠性が強すぎると、播種期の発芽率が低下し、こちらも収量の減少に直結します。したがって休眠性を適切に制御することは、農業上きわめて重要です。私たちのイネを用いたこれまでの研究から、インド型品種の「ハバタキ」の種子は、「コシヒカリ」や「ササニシキ」の ような日本の主要な品種にはないような特徴的な休眠性を示すことを見出しました。現在、「ハバタキ」の種子の休眠性について以下の研究に取り組んでいます。
キーワード
穂発芽、インド型水稲品種、穎、染色体断片置換系統(CSSLs)、RT-PCR法、QTL、吸水、トランスクリプト-ム解析、ハバタキ、ササニシキ
本研究では、ゲノム編集技術などを用いた遺伝子改変により、開花(花弁展開)から花弁老化までの時間、すなわち「花の寿命」を人為的に制御することで、 ‘受粉効率’、‘花持ち性’および ‘種子生産性’ が向上した作物品種の育成を可能にするための新たな知見を得ることを目的とし、以下の課題に取り組んでい ます。
キーワード
花弁老化、プログラム細胞死、GWAS、オートファジー、14-3-
3タンパク質、CRISPR/Cas9、種子生産性、開花時刻、受粉効率、アサガオ
本研究では、遠縁交雑による育種の障害となっている「雑種致死」および「雑種弱勢」の発現およびその克服現象に関わる分子機構を解明し、それらの発現を人為 的に抑制することで、野生種の持つ環境ストレス耐性などの有用形質を栽培種に導入することを可能にする新たな知見を得ることを目的とし、以下の課題に取り組んでいます。
キーワード
交雑育種、遠縁交雑、DNAのメチル化、タンパク質凝集体、オートファジー、免疫応答、液胞型細胞死、プロテオーム、タバコ属、シロイヌナズナ
本研究では、作物の持続的な生産および収量増加を達成するため、本学の横山正教授によって開発されたBacillus pumilus TUAT1株を原体とする微生物資材(バイオ肥料「きくいち」)のもつ「成長促進」や「環境ストレス耐性の向上」といった多面的な機能が安定的かつ高いレベルで現れる作物品種を効率的に育成するための知見を得ることを目的とし、以下の課題に取り組んでいます。
キーワード
PGPR(植物生育促進根圏細菌)、化学肥料低減栽培、次世代シーケンサー(NGS)、GWAS、世界のイネコアコレクション、日本のイネコアコレクション、品種間差異、ストレス耐性、病害応答