固体表面に均一なナノ周期構造を形成
~強度分布を制御したレーザーによって高品位なナノ構造を実現~
ポイント
- 均一で直線性の良いナノ周期構造を従来法と比べて約6倍となるレーザー照射部分の約95%に形成
- 撥水性、疎水性のような力学的制御機能や光の反射、透過のような光学的制御機能を付与できる固体表面の作製に貢献
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国立大学法人bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@ 大学院工学研究院先端物理工学部門の宮地 悟代 教授、同大学大学院工学府化学物理工学専攻の住本 武優 氏らの研究チームは、チタン表面に高強度のフェムト秒レーザーパルス[注2]を照射するだけで、周期が490 ナノメートル(nm;ナノメートルは1ミリメートルの百万分の一)で一定で直線性の良いナノ構造体を、固体表面から直接削り出だせる技術を開発しました。この技術により、固体表面に撥水性や親水性のような力学的制御機能だけでなく、光の反射や吸収などこれまでにない光学的制御機能を容易に与えることができると期待されます。この詳細を既述した論文は、2025年2月25日にnanomaterialsにてオンライン掲載されます。
掲載誌:nanomaterials
出版日:2025年2月25日(電子版のみ)
報道解禁日:2月25日 午前11時00分(日本時間)
論文名:Formation of homogeneous nanostructure via interference of square flattop femtosecond laser pulses
著者名:Takemasa Sumimoto and Godai Miyaji
URL:https://www.mdpi.com/journal/nanomaterials
研究背景
サブミクロンサイズ(1ミリメートルの1/1000より小さなサイズ)の構造体を固体表面に付与すると、撥水性や親水性のような力学的特性を付与できることや、光の反射?吸収?透過量の変化や偏光面の回転のような光学的特性を付与できることがよく知られており、このような「機能を持った表面」の応用が注目されています[注3]。しかし、サブミクロンサイズの加工を行うためには、これまでは半導体デバイス製造に使われている技術(リソグラフィーとエッチングの組み合わせ、またはナノインプリント技術)を使う必要があるため、製作工程が複雑であるという課題がありました。
一方、フェムト秒レーザーパルスを複数パルス照射することによって、固体表面にナノメートルサイズの周期構造体を直接形成する技術はありましたが、この現象はレーザー光の強度によって周期が変化します。そのため、レーザー装置から出力されるガウシアンビーム[注4]を用いると、周期が一定の領域が小さいことに加え、その周囲にレーザー光で形成した改質領域が形成されてしまい、目的とする機能表面がレーザー照射部分の2割未満しか得られないことが課題でした。
研究成果
本研究チームはまず、中心波長1047 nm、パルス幅300フェムト秒(fs)のフェムト秒レーザーパルスの強度分布を正方領域で均一になるように整形しました(図1(a))。次に、そのビームを回折光学素子によって2つに分け、それらを加工面で重ねることにより、均一で直線性の良い周期1.9 μm(1900 nm)の干渉縞を発生させました(図1(b))。これらのビームによってチタン表面に本学の独自技術である2ステップ加工法を行った結果、周期が490 nmで一定で直線性の良いナノ構造(図2)を一辺が53 μm(5300 nm)の正方領域に全面に形成することに成功しました。この構造はレーザー照射部分の95%以上にわたって形成され、改質領域がほとんど生じませんでした。これは従来のガウシアンビームを用いた場合に比べ、約6倍の効率で目的の機能表面を得ることができたことを示しています。
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今後の展開
今回開発した技術を利用すると、固体表面にフェムト秒レーザーパルスを照射するだけで数10 nmから数100 nmの均一な溝を掘ることができるため、複雑なプロセスや薬剤が不要な微細加工技術の実現が期待されます。また、レーザー光を照射する位置を変えるだけで加工部分を移動できるため、加工材料の大きさに制限がなく、メートルサイズの領域へのナノ加工も容易です。このような大面積領域にナノメートルサイズの微細加工を行える技術は他にはなく、例えば、自動車の摺動部分に形成して摩擦を下げること、細胞が成長?進展する方向を制御すること、色素を使わずに呈色させること、LED照明の指向性を上げること、窓ガラスの反射率を下げて透過率を上げることなどへの応用も期待されます。
注釈および用語解説
注1:2ステップ加工法
凹凸を形成した固体表面に、フェムト秒レーザーパルスを複数パルス照射することにより、均一で直線性の良いナノ構造を作成する手法。特許第7083982号。
注2:フェムト秒レーザーパルス
1フェムト秒以上1ピコ秒未満の間にのみ存在するレーザー光のこと。1フェムト秒とは10の(-15)乗秒で、1ピコ秒とは10の(-12)乗秒。レーザー技術の進歩によって、近年容易に利用できるようなった。
注3:詳しくはJST新技術説明会での説明資料を参照(https://youtu.be/9EDYUSmqkfQ)。
注4:ガウシアンビーム
強度分布が中心からの距離によってガウス関数で変化すると見なせるレーザー光のこと。したがって、中心部が最も強度が高く、中心から離れるにしたがって徐々に低くなる。
謝辞
本研究の一部は、JST 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)トライアウトJPMJTM22BSの支援を受けて実施されました。
◆研究に関する問い合わせ◆
bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@大学院工学研究院
先端物理工学部門 教授
宮地 悟代(みやじ ごだい)
TEL:042-388-7153
E-mail:gmiyaji(ここに@をいれてください)cc.jskrtf.com
プレスリリース(PDF:993.7KB)
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